創作物への表現規制と人権の関係(その2)

前回記事へのブコメ欄(http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/seijigakuto/20090509/1241868806)でのコメントに対応した補足。

WinterMute 表現の自由, 規制 ”どこの界隈にもそういう人はいて、目立つのはそういう人達” 此方も彼方も確かに、まあ。規制派は宗教勢力が、見えづらい・大きい、というイメージ。だから”フェミニスト”とは認識してなかった。 2009/05/10

創作物規制は、極論系のフェミニスト、宗教保守なんかの左右の極論が引っ張っていて、それに余り関心のない無関心層が引っ張られている感じです。フェミニズム系は、有名所の上野千鶴子教授や福島瑞穂議員なんかが規制反対派なので、そちらのイメージが強いのだと思いますが、規制派には宗教勢力や純潔教育を支持する右派だけでなく、左派やフェミニストの間でも規制推進派はいます。
左派フェミニズム以外の規制の根拠も、パターナリズムやリーガル・モラリズムの都合のいい所の切り張りなどもあったりと、日本の政治運動は色々ごちゃ混ぜになっています。

sauvage 人権, 正規表現, 言論の自由 説明がすげー変だよ。例えば公民権獲得運動を人権運動等と余り言わぬ通り社会契約論的な古典的人権、基本的人権と拡張されたそれは分けた方がいい。進歩主義の影響下にある立法変革主義と基本的人権の衝突でしょう。 2009/05/10

メンズリブも入っている穏健派のフェミニストの人に、創作物規制との絡みで聞いたので、そういう感じの認識になるようです。もちろん、正確には違うんでしょうし、思想的な根拠の強い人権獲得運動といった感じの捉え方なのかもしれませんが、対象を限定して整理すると、そんな感じになるようです。
この辺りは、(私はフェミニズムには詳しくはないので)翻訳する私の解釈ミスかもしれませんが。

syomu 社会, 表現規制 法規制がなくても言葉狩り、表現狩りは自粛の名のもとにかなり進みましたよね。凄い成果だ。 2009/05/10

「法的根拠がなくても、「お察し」で流通が自己規制を始めたら、その時点で実質的な絶版」というのが出版業界の現状ですし、見せしめ的な摘発や表現狩りを恐れる心理は、日本社会には根強いのだと思います。その事例として、1999年の紀伊国屋事件をまとめました。
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/264.html#id_f4013d06

font-da 「男性に人権はいらない」こ、こんなこと言ってるフェミニスト見たことないねんけど。/ていうか、日本のフェミニズム系(←こんなのがあるなら)だと、「参政権運動」はフェミニズムじゃなくて婦人運動だなあ。 2009/05/10

もちろん、有名所には、そういう事まで言う人はいないと思います。ただ、「外国人に人権なんかないのに」と追い出せデモで本音?を漏らす(http://d.hatena.ne.jp/gkmond/20090412/p1)、在特会という「行動する保守団体」もありますし、極論はどこにでもあります。フェミニズムは、上野教授曰く「一人一派」のようなバラバラ感なので、なんちゃってフェミニストみたいな人もいますし、フェミニズム関係の人が「そういう人も、見かける」といっていました。
参政権運動はフェミニズムではない(と私は思う)ので、そちらと合わせた整理は長くなって直接は関係ないので書きませんでした。ただ、19世紀後半の女性の参政権獲得運動を、女性解放運動(フェミニズム)の第1の波、1980年代?から続く世界規模での女性解放運動を、フェミニズム第2の波と、女性学は評価しているそうです(この辺りは詳しくないので、私の解釈や引用ミスの可能性もあるかもしれませんが)。

Cuz-orz 人権, 表現規制 表現の自由を掲げても、ポルノ規制と対立するのは分が悪い感じがある 2009/05/10

分を良くするだけなら、「児童の人権」を使ってのカウンターが有効です。
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/52.html#id_14d44558
児童ポルノ法において、創作物規制の根拠となる社会的法益説が入っているおかげで、被害児童=社会風紀を乱した犯罪者として扱われる事もあり、そういった「実在児童・被害者の人権」は無視しているのが規制派だと訴えれば効果的です。
国際人権条約の拡大解釈を根拠とした規制要求は「質問:国際法違反に対する最も厳しい制裁は何か?回答:国際法学者からの厳しい批判」というのが実際の所なので、米国政府からのガイアツ以外はスルーしても問題ありませんし、実際に最近の日本政府はスルーしている事がほとんどです。

今回の人権団体の規制の根拠は、日本国憲法14条を根拠としたものだそうですが、ここから政府に対するポルノ規制の義務を読み込むという非常識な解釈は聞いたことはないので、思想的なものがメインになっていると思います。

追記

ブコメ欄のコメント返信の追加です。

sirobu 表現の自由, エロゲ お互い感情論なのを権利の行使っていうオブラートに包んでるから難しい。 2009/05/11

ぶっちゃけ、その通りです(笑)。法律にも感情論とパワーバランスによってできたものはたくさんありますし、ポルノ規制なんかは、そのものだと思います。とはいえ、「人権団体うざい」とか「プロ市民うざい」とかだけだと建前論としては弱く、多くの人の共感も得られないので、対抗言論では理屈を考えたり、人権や権利の行使とかのオブラートに包むのだと思います。

sauvage 被言及 あ、フェミニストの謂う所に拠るとって事か。あの内容だと女性の基本的人権が無かった処から創出って事になるから先進国では失当。寧ろ社会的障壁排除の為の変革主義。過剰に扇動的な世界観だと思う。 2009/05/11

もう少し細かくいうと、19世紀後半の女性の参政権獲得運動を、女性解放運動(フェミニズム)の第1の波、1980年代?から続く世界規模での女性解放運動を、フェミニズム第2の波と、女性学は評価しているそうです。そのうちの「第2の波」の方を、他分野にも波及する人権獲得運動の先駆けみたいな感じで捉えているようです。
世界観に関しては、差別や権力構造・階級等を扱う思想の場合は、扇情的な感じになる傾向にあると思います。殆どの社会悪を米帝国主義と独占資本のせいにする(少し前の)日本共産党流の世界観や、反日左翼や人権団体のせいにする(一部の)ネット右翼流の世界観程極端ではありませんが、イデオロギーや思想に関わると、一般にも分かりやすくするためか学問的?に突き詰めた結果かは分かりませんが、そんな感じになるのかもしれませんね。

補足

山口弁護士の記事(http://yama-ben.cocolog-nifty.com/ooinikataru/2009/05/post-0c01.html)で紹介されていた、背景となる人権団体の思想などの調査。

2009-05-08 - 「反ヲタク国会議員リスト」メモ
http://d.hatena.ne.jp/killtheassholes/20090508

調査したブログは、創作物規制推進派の議員の幅を広くとり、人権団体嫌いというバイアスはありますが、日本の人権団体の背景調査は、結構正確な所に近いのでは?と思います。
ドウォーキンとマッキノンの位置づけの解釈については、あっているのか間違っているのか定かではありませんが、両者は極論であり、米国のフェミニズムでは主流ではないという部分だけは合っていると思います。