子ども手当て関連のデータに関して

子ども手当:「所得制限を」社民と国民新 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/today/news/20090921k0000m010041000c.html

定量的なデータが不足しているとのコメントを見かけましたので、簡単に触れておきます。

子ども手当ての概要

現行の児童手当ては小学生(12歳)までで1人目〜2人目は月5,000円、3人目以降は月10,000円支給するもので、使っている予算は約1兆円です。民主党案は、これを中学生(15歳)までかつ1人26,000円に拡張しようというものです(少し前までは一人16,000円でしたが、選挙の際に26,000円に拡張しました)。

この施策のために必要な財源は年間5.3兆円で、民主党は財源として配偶者控除(0.6兆円)と扶養控除(0.8兆円)を廃止した増収分、現在の児童手当ての1兆円を転換する予定だそうです(合計2.4兆円)。但し、それでも差引きの2.9兆円が不足し、この分はどこから捻出するのかが問題となっています。

財源問題の厳しさ

民主党の施策は、10〜13年度の各年度ごとに所要額の内訳も示していますが、段階的に実施し、約束通りの規模で行った場合は2013年度には16.8兆円になります。本題から外れるので説明は省きますが、「官僚の無駄遣い」を改めたところで、こんな財源が確保できる訳はありません。

また、高齢化率の上昇に伴い、社会保障支出は年間で8,500億円〜1兆円の純増になります(小泉内閣の「社会保障費2,200億円削減」というのは、伸び幅を7,800億円にするといったもの)。 社会保障支出にしても、社会保障給付費(年金、医療、福祉その他)の国民所得費は11.5%(1980年)→23.87%(2006年)とかなり厳しい水準まで上昇していて、少しの財源を確保しても社会保障の自然増に呑み込まれてしまいます。
社会保障給付費の推移などは、以下の通りになります。

年度 社会保障給費 対前年伸び率 高齢化率 国民所得 対前年伸び率 社会保障給付費/国民所得
1980 24兆7,736億円 12.7% 9.1% 203兆2,410億円 11.5% 12.19%
1985 36兆6,798億円 6.1% 10.3% 261兆0,890億円 7.4% 13.67%
1990 47兆2,203億円 5.2% 12.0% 348兆3,454億円 8.1% 13.56%
1995 64兆7,243億円 7.0% 14.5% 374兆2,775億円 0.1% 17.29%
2000 78兆1,191億円 4.1% 17.3% 371兆8,039億円 2.0% 21.01%
2005 87兆7,827億円 2.2% 20.1% 366兆6,612億円 0.8% 23.94%
2006 89兆1,098億円 1.5% 20.8% 373兆2,466億円 1.8% 23.87%
所得制限を行った場合に確保できる財源

上記までの議論を踏まえて、現実的に財源を確保するためには所得制限というのを考慮する必要があります。

1 年次推移別の所得の状況 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa03/2-1.html

厚生労働省のデータを見ると、世帯年収1,000万円以上は15%の割合になっていますので(世帯なので、共働きの場合は夫と妻の年収を合算)、単純計算で5.3兆円×15%で7,950億円が毎年節約できます(共働き世帯は1,011万世帯で、専業主婦世帯は825万世帯の割合です)。
なお、15%という割合の妥当性ですが、児童をもっている世帯の年収の正確なデータはありませんが、子育て家庭は、平均の世帯年収よりも100万円以上世帯年収が高いため、大きくは下回らないか、むしろ増えるのではないかと思います。

この浮いた7,950億円は子ども手当ての足りない財源とするのが通常だと思いますが、視点を変えて「子育て支援」の枠組みの一環として捉えると、以下の少子化対策の他の施策を行う事もできます。

(1)自民党が主張していた幼児教育(3〜5歳児に対する幼稚園・保育所などを通じた幼児教育費)の無償化:7,900億円
(2)自民党が主張していた奨学金の充実・授業料減免制度拡充:2,293億円
(3)民主党が主張している高校教育の無償化:4,500億円
(4)民主党が主張している出産育児一時金の38万円→55万円への増額:1,400億円
(5)民主党が廃止する予定の配偶者控除の廃止取りやめ:6,000億円
(6)民主党が廃止する予定の扶養控除の廃止取りやめ:8,000億円

結論

結論は特にありませんが、(1)親の所得の調査は市役所ないし国税庁がしっかり把握している(2)所得制限を行うと7,950億円が節約でき、それによってできる少子化対策の施策はたくさんある、という事だけは提示しておきます。