外国人の参政権などに関する補足

1.ハイクでのコメントへのお答え

http://h.hatena.ne.jp/irukanoirutaro/9234091128984291933
政治系の話題ではリベラル寄りの発言(人権が金科玉条になってるような)をしている人が、「死ね」等罵倒していると、政治系の話題でどんなに熱心に持論を展開されても、感情論にしか見えなくなって説得力を感じない。
この感覚っておかしいのかな?
……おかしくないと思います!

私は、「人権問題を理解できないのは、○○の頭が悪いか人でなしだから」といった系統の議論をする人の記事は(ブックマークで話題になった時は除いて)基本的に読みませんが(笑)、真面目に人権問題や他者支援の活動に取り組んでいる人は、(ネット以外では)こういった「人権派」は少数だといっている事が多いのではないかと思います。で、普段からそういう議論ばかり見ていても仕方ないと思いますし、人権問題に関しても、ちゃんとした理由がある場合なども紹介します。

東京弁護士会外国人の権利に関する委員会編『実務家のための入管法入門』から引用しますと、難民問題を例にとると、各法で必要とされる立証の程度は刑事法は「合理的な疑いを超える証明」が必要とされパーセンテージだと80〜90%程度、民事法では証拠保全の優越で51%を超えれば立証責任を尽くした事となるが、難民法における立証基準は、相当な可能性や合理的理由があればよいとされているそうです(%の明言はしていませんが、図では20%程度の辺りを指していました)。
この理由は、「刑事法における有名な格言『たとえ十人の犯罪者を逃しても、1人の無辜を処罰してはならない』に倣って、『たとえ十人の難民でない人を保護しても、1人の難民を取りこぼしてはならない』から」との事です。難民問題は外国人の人権の中でも特殊で極端な例ですが、人権問題の中には、他の問題とは違った基準が採用される分野もあり、その事を正確に理解している専門家などが、理解していない人の人権理解に対して疑問を呈す事は普通ではないかと思います。

次に、きちんとした議論を展開する人は、「人権問題」といっても、(特定の人達の人権の増進に対して対立する公益がある以上)全てにおいて「そういった(人権に有利な)基準を適用しろ・適用しないのは不正義だ」といっている訳ではなく、一定の留保をつけたり、相手のロジックを理解して対立する利益を正確に把握した上で立論をしていると思います。政策論と人権について補足しますと、政策論と人権は明確に区別できるものではなく、どの問題を扱っても他方の視点が入り込んできます。政策論に関しては、メリット・デメリットやPROS・CONSで議論するのが一般的だと思いますし、政策論として馴染まない問題でも、代わりに説得力のある誠実な論理の積み重ねが要求されるのではないかと思います。

外国人の人権問題に関しては、自分のイデオロギーのアピールや記号的に理解して極論を述べるのではなく、実際にこの国で暮らしている人達の生活上の利益をどう考えるかという視点を踏まえ、個々の権利の性質・対立する利益との考量を検討しながら、○○の権利ならばどの程度まで保障されるべきか?といった事を個別かつ具体的に考えていくべきではないかと思います。
ちなみに、外国人の参政権は人権とはいえ政治参加という特殊な問題なので、政策論のウェイトを高く置くのが普通で、この点を「人権問題」として押し切ろうとする議論は……という感覚は間違っていないと思います(最高裁判例も立法政策の問題としていて、全面要請説とかもありますけど、少数説です)。

2.PROS・CONSに関する補足

メリット・デメリットやPROS・CONSの議論は深入りしませんが、代表的な移民問題に絡んだ懸念(外国人にのっとられる系のもの)についてお答えしますと、リスクの想定が実態に即していないという事が指摘できるのではないかと思います。
外国人の中でも、地方参政権の対象になる人の割合などのデータは以下のようになります。

外国人登録者数:215万2973人
うち特別永住者・永住者の合計:86万9986人
前回衆院選時の全国の有権者数:1億424万4170人(総務省発表)
永住外国人有権者に占める割合:約0.86%

また、外国人といっても、投票率が100%に近く一致した投票行動を取る訳ではなく、既に導入した外国の実績では、投票率は国民よりも10%〜40%程度低くなっています(http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/224.html#id_28004dab)。
日本の地方選挙は投票率が低いので、日本国民との投票率の差は余りないかもしれませんが、一般的な傾向としては、外国人は地方参政権を得ても事前に反対派が想定していたような投票行動をする訳ではないという事はいえると思います。

3.判例に関する補足

http://b.hatena.ne.jp/entry/www7.atwiki.jp/epolitics/pages/216.html
amdgRCC 政治, 外国人参政権, 社会 なるほど、条例が法律と矛盾しないから地方の「立法」に外国人参加は許容という論理か。しかし(司法権は地方にないから関係ないが)三権の残りの、地方の「行政」が外国人許容な根拠は何なのだろう? 2009/11/15

判例では、外国人の(国政)参政権が否定される理由は、国民主権の原理との関係で説明されています。

http://space.geocities.jp/fundamental_human_rights_365/H7_2_28.html
憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものである。そこで、憲法一五条一項にいう公務員を選定罷免する権利の保障が我が国に在留する外国人に対しても及ぶものと解すべきか否かについて考えると、憲法の右規定は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的任免権が国民に存することを表明したものにほかならないところ、主権が「日本国民」に存するものとする憲法前文及び一条の規定に照らせば、憲法国民主権の原理における国民とは、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らかである。そうとすれば、公務員を選定罷免する権利を保障した憲法一五条一項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。そして、地方自治について定める憲法第八章は、九三条二項において、地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙するものと規定しているのであるが、前記の国民主権の原理及びこれに基づく憲法一五条一項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。

地方の参政権が許容される理由は、判例(の傍論部分)では以下のように述べられています。

憲法九三条二項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したものとはいえないが、憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。

傍論による影響に関しては、Wikipediahttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E5%8F%82%E6%94%BF%E6%A8%A9#.E3.80.8C.E5.82.8D.E8.AB.96.E3.80.8D.E3.81.AB.E3.82.88.E3.82.8B.E5.BD.B1.E9.9F.BF)が詳しいです。
原典に当っていないので真偽は確認していませんが、傍論を強く主張した園部逸夫裁判官の発言は以下のようだと言われていて、反対派の人からは問題視されています。

「在日の人たちの中には、戦争中に強制連行され、帰りたくても祖国に帰れない人が大勢いる。帰化すればいいという人もいるが、無理やり日本に連れてこられた人たちには厳しい言葉である。私は判決の結論には賛成であったが、自らの体験から身につまされるものがあり、一言書かざるをえなかった・・・・・」(朝日新聞平成11年6月24日付 注「自らの体験」とは、園部自身が戦前日本統治下の朝鮮半島に生まれ育ったことを意味している)
「この傍論を重視するのは、法の世界から離れた俗論である」(『自治体法務研究』第9号、2007年)

4.外国人市民代表者会議

http://b.hatena.ne.jp/entry/www7.atwiki.jp/epolitics/pages/216.html%23id_d0a9d160
shibashuji 外国人, 民意 ドイツは「外国人市民代表者会議」を市の諮問機関とし、EU以外の市民の声を公的に反映させている。日本では川崎市がそれを取り入れてる。http://bit.ly/1nwFV1 民意の反映という趣旨ではもっと注目されていいはず。 2009/11/15

外国人市民代表者会議などはフォローしていないので、情報は助かります。外国人参政権による間接的なメリットとして、自治意識の向上により地域運営への積極的参加(ブラジル人のゴミ出し問題の解決)なども指摘されていますが、「市民の声を公的に反映する仕組み」という括りでの試みはもっと注目されてもいいですね。

5.重国籍問題に関して

http://b.hatena.ne.jp/entry/www7.atwiki.jp/epolitics/pages/216.html%23id_d0a9d160
nisshiey_s1 政治, @Wiki, 資料, 永住外国人地方参政権 重国籍容認かどうかもいるような。 2009/11/15

重国籍に関しては、別にまとめています(http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/129.html)。ただ、重国籍に関しては、純粋に法学の理屈や人権問題としては理解されておらず、各国でも国の都合や実情に合わせて緩くなったり厳しくなったりとコロコロ変わります。
また、「重国籍容認」といっても重国籍の推進派や人権に積極的な人の議論のような都合の良い運用はされておらず、気がついたら重国籍に対して厳しくなったなどの事が普通に起きています(http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/129.html#id_5062a864)。韓国では「国益に資するエリート外国人(朝鮮日報の表現)」限定で認める方向で議論されていますが、それ以外にも、兵役逃れのための手段として重国籍が使われているので、その弊害のケアとしての重国籍の容認問題なども話し合われています。

日本においても、重国籍は(「在日特権」のような他の外国人と比較して有利なだけの印象操作的なものとは違い)単国籍の日本人よりも有利な文字通りの「特権」を容認する事であり、法務省も「二重国籍者が属する各国の権利・特権を行使し得ることは、日本の国籍のみを有する通常の日本国民との間に、法律上の不公平を生ずる」として認めていません(出生によって重国籍となった重国籍者に対する運用は「黙認」ですが、悪意的な使い方をしている重国籍者に対しては、個別に督促などがいきます)。

以前のコメントへのお答え

http://b.hatena.ne.jp/entry/www7.atwiki.jp/epolitics/pages/216.html
okgwa これ読むと、「要請」はほとんどないようで、だとしたら全然後回しにしていい問題のような気がしてきた。ただ民主党は今のうちに成立させようとするだろうなあ。次はないもんなあ。 2009/09/06

一般的な理解は、判例・通説共に「許容説」であり、専ら立法政策の問題であるというものです。「外国人問題」という枠組みで捉えても、参政権問題は、在留資格問題のように当事者にとって緊急性のある問題や、外国人の子供の教育問題のように早めに手をつけないと悪化していく一方の問題とも違いますので、国民の理解を得るための手段を尽くして、じっくりと議論していっても支障はないと思います。

http://b.hatena.ne.jp/entry/www7.atwiki.jp/epolitics/pages/216.html
WinterMute 外国人参政権 Q&Aが相変わらず秀逸。海外事例に関しては帰化の難易度とあわせてみないとやっぱりよくわからないなぁ。 2009/04/13

海外の帰化の難易度に関しては、欧州は緩く、米国は日本よりは緩いけれども思想チェックなども行い、帰化に対して特別な意味を持たせているようです。
米国の帰化の際の思想チェックはこちら(http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/274.html#id_035a942b)に載せておきました。帰化の意味合いについては、米国の移民問題を扱った社会派の映画『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官(http://www.seiginoyukue.jp/)』などを見ると、イメージがつかめるのではないかと思います。

なお、日本における帰化に関しては、旧植民地出身者(在日コリアン等)を対象に届出だけで国籍を取得できるようにする「国籍取得特例法案」というものが2001年頃から議論されており、旧植民地出身者の二世・三世・それ以降の世代の政治参加の問題はそちらで解決するという方法もあります(国籍取得特例法案は、参政権法案の代替案として出てきたものです)。