女子差別撤廃条約選択議定書問題に関して

女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%B3%E5%AD%90%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%82%E3%82%89%E3%82%86%E3%82%8B%E5%BD%A2%E6%85%8B%E3%81%AE%E5%B7%AE%E5%88%A5%E3%81%AE%E6%92%A4%E5%BB%83%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%9D%A1%E7%B4%84
e-politics - 女子差別撤廃条約
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/286.html

最近のネット界隈では、ネット政治運動の新ネタとして「女子差別撤廃条約」の選択議定書が話題になっているようですので、少しだけまとめを作ってみました。


まずは、認識されている問題の概要。

Free Japan! 【04-18】 緊急「女性差別撤廃条約」が危険
http://www.freejapan.info/?News%2F2009-04-18
女子差別撤廃条約議定書の批准問題について》
1.女子差別撤廃条約選択議定書とは?
個人や団体が国連女子差別撤廃委員会に訴えることのできる個人通報制度である。但し国内での救済を経てからではないと通報できない。
2.議定書を批准すれば確実に起こってくる問題
①非嫡出子の相続、夫婦別姓制度が差別であると、国が、国連女子差別撤廃委員会に訴えられる
②独立した人権擁護委員会設立が必要であると、国が委員会に訴えられる
③その他の人権条約、例えば、児童の権利条約等の議定書を批准する障害がなくなり、全ての人権条約の議定書が批准されてしまう
3.上記の問題の国内への影響
①非嫡出子、夫婦別姓民法改正問題が再び起こり、わが国家族制度に大きな弊害をもたらす事態になる
②監視社会となるとして国民の中でも反対の多い人権擁護法案が再び浮上する
③その他の人権条約の議定書が批准されれば、例えば現在論議になっている不法滞在親子の問題は、「父母と共に生活する権利侵害」として国連に通報される。不法滞在者に在留特別許可を与えるか否かという国家の主権行使の問題が、児童の権利の問題にすり替えられてしまい、国家主権が侵害される。
最高裁で敗訴しても、国連にその事柄について訴えることが可能となるため、わが国の司法制度は軽んじられ、司法権の独立を侵すこととなる。又、わが国の法律や制度を訴える訴訟が次々に起こされることが予想される。


上記の懸念に対する説明としては、条約の拘束力について、某掲示板にあった国際法に詳しい人のQ&Aが本質を突いていると思うので、引用します。

質問:国際法違反に対する最も厳しい制裁は何か?
回答:国際法学者からの厳しい批判

女子差別撤廃条約に関していえば、2005年の段階でこの条約の批准国は180ヶ国で、選択議定書の批准国は71ヶ国です。
日本がこの条約を批准した1985年の当時は、条約の内容と日本の現実があまりに違うので、女性学会の大御所である上野千鶴子は「おいおい。本気かよ。字が読めなくて条約に署名しちゃったんじゃないのか?」といっていたそうですが、下記の「人権の到達度」に関するデータと批准国の数を見れば、欧州の先進国以外でのこの条約の拘束力というものがどの程度のものかが想像できると思います。

参考:人権の到達度(1991年の調査)
99 フィンランド
94 カナダ、フランス
93 イギリス
90 アメリカ、イタリア
87 スペイン、ギリシャ
82 日本
62 世界平均


こういった条約の場合、おおざっぱに「法源としての条約」を分類すると、以下のようになります。

× 日本の法廷で権利を主張するための根拠法として使える
○ 行政訴訟において、条約を参照した主張も認められる(例:退去強制の違法性を主張する際の根拠として「児童の権利条約」を使用する)
○ 条約の義務を履行するための国内立法を求めるための根拠となる(政治的主張

本体の条約は既に批准していますので、今回関係があるのは個人通報制度になりますが、これは国際労働機関(ILO)の提訴・勧告とほぼ同じ制度であり、過去には連合などの労働組合がILOに提訴し「国家の運営に直接関与しない公務員に,結社の自由の原則に則り団体交渉権とスト権を付与すること」などの勧告が出ましたが、その後公務員にスト権は付与されていませんし、公務員のスト禁止を合憲とする最高裁判例も変わっていません。

日本政府には国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)の意見・勧告に従う条約上の義務はありませんので、勧告をスルーしたとしても、それに対する制裁は「国際法学者の厳しい批判」くらいに留まると思います。

条約や選択議定書を根拠に立法を行うような「政治的主張」に関しても、民法改正問題・入管法などで法務省NGOに一歩も譲っていない事から分かる通り、(行政訴訟において弁護士が法廷で使用するケースを除いて)こういった国際条約はNGOが政府を批判したり騒いだりする際のネタといった範囲に留まっているのが現状ですので……今回の反対理由は、支援NGOが嫌いだから(名うての左翼団体が勢ぞろいだと認識されているようです)、色々な理屈を後付けで考えただけなように思えたりします。

但し、権威がある(ありそうな)所から発せられた勧告・命令・報告書等のメッセージは大なり小なり、現実や認識に影響を与えますし、そういったNGOの中には自分達の主張が通らない場合は国連等で「差別国家日本」という宣伝をしながら主張を訴える所もありますので、後々そういった問題を抱え込みたくない場合は、今回も批准を見送るといった選択肢もあるのではないかと思います。

以上、ざっと簡単に現時点での見解を書きました。この分野は詳しくないので、質問や補足・間違いの指摘等あればコメントをお願いします。