外国人問題に関して・その3(外国人政策への国民世論の影響など)

http://b.hatena.ne.jp/entry/hisamatomoki.blog112.fc2.com/blog-entry-499.html
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「対行政」の視点だけを問題にして、「対一般国民」向けに対話の可能性を閉ざす事の問題は少ないかのように解釈している人もいますが、これは問題のレイヤーが違うだけであり、両立しえます(こちらは「当事者」に直接のデメリットを与える話というよりも、中期的な視点ですが)。
在留特別許可は、行政(入管)と司法(裁判所)が直接の決定権限・救済権限をもっていますが、それに対して国民世論(国民感情)が与える影響力というものも存在します。

1、行政を動かす場合の例

在留特別許可の基準の変遷(http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/240.html#id_ef351b25)にも書きましたが、在留特別許可は、元々は在日コリアンという特殊な歴史的経緯を持つ「外国人」が退去強制を免れるための制度として機能していました。
それが1990年の入管法改正とそれに伴う外国人人口の増加によって、次第に許可されるカテゴリが拡大していくのですが、この中には世論の影響によって範囲が拡大していったものも存在します。

1990年以前:在日コリアンがほとんど
1990〜1999:(1)日本人又は永住者との婚姻を行った外国人(2)日本人の実子を養育している外国人がカテゴリに追加
1999以降:長期滞在で子供が中学生以上なら、一家全員在留資格なしでも許可する可能性のあるカテゴリに追加

元々「在留特別許可」という制度は、法務大臣(実質的には入管)の裁量の範囲が極めて広く、国民世論の後押しが大きければ、その裁量の範囲でもって、許可するカテゴリを裁量によって広げる事もできますし、条件から考えると微妙なボーダーラインにいる一家を許可する方に振り向ける事もできます。

その事例として挙げられるのが、1999年のAPFSというNGOが主導による非正規滞在者(不法滞在者)21名による集団出頭の際、一家全員在留資格がないケースでも許可される可能性もあるカテゴリに追加された事です。この時はマスコミによって取り上げられ、一般の国民からの賛同の署名も多数集まりました。「27万人署名運動」としてAPFSがサイトで紹介していますが、NGOと弁護士というのは「いつもの面子」であり、そういった人達の支援だけだった場合は、行政(入管)は動かず、「いつも通り」に、一家全員在留資格がない場合は強制送還という対応を行った可能性は非常に高いと思います。
「在留特別許可と一般国民の世論」という事では、今年のカルデロンさん一家の問題がありますが、カルデロンさん一家の場合は以下のような条件分岐になっています。

http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/237.html#id_796c2d2c
一家全員在留資格のない外国人家族のケースだと、以下のような基準を満たしている必要があります。
(1)おおむね10年以上の日本での在留年数
(2)日本で生まれたか、幼少の頃に来日した子供がいる
(3)その子供(長子)が中学生以上である
(4)素行が善良である
カルデロン一家の場合、
不許可裁決が出た時点→子供が小学5年生((3)の条件を満たしていない)
今現在→子供が中学1年生((3)の条件を含め、全ての条件を満たしている)

この場合の条件分岐としては、一家全員強制送還となるのが通例ですが、マスコミにも取り上げられて一般の国民からの署名が2万人近く集まったことにより、結果として子供だけは日本に残留する事ができました(一家全員残留となるまでに範囲を広げるには、国民世論の後押しが足りなかったという解釈もできます)。一家の条件分岐に関しては、担当であった渡辺弁護士も言及しています。

NPJ通信 カルデロン・ノリコ事件が語るもの 弁護士 渡辺彰悟
http://www.news-pj.net/npj/watanabe-shougo/index.html
>これまで退去強制手続上、裁決の時点で中学生ということであれば、在留が認められていた同種事案が存在した。同様に小学校高学年にまで枠を広げよと主張することの困難さは感じていたものの、中学と小学校高学年の子どもがどれほど違うのか、私にはノリコの最善の利益を考えれば、既にこの年まで到達している子どもを日本で受け入れることが、もっともノリコの利益に適うものと考えていた。

このように、(集まった署名数などの)国民世論の与える影響というものもありますので、「反日上等」を掲げて「27万人署名運動」が成功するかという点、単独の一家に対して2万人もの署名が集まった背景には、一家が地域に根ざしていて一家を残留させて欲しいと考える人が増えていた事があり、そのためには地道に説得を続ける事も大事だったのではないか?という点に思いを致せば、一般国民向けの視点でも理解しやすいのではないかと思います。

参考)
在留特別許可一斉行動について
http://www.jca.apc.org/apfs/zaitoku/zai_issei_index_j.html
「27万人」署名運動
http://www.jca.apc.org/apfs/sign27_01.html
在留特別許可の基準の変遷
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/240.html#id_ef351b25
カルデロン一家問題のまとめ
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/237.html

2、司法に影響を与える可能性

こちらは直接の担当は弁護士ですが、一般の人達の国民感情というものが影響する場合もあると思います。例えば、「児童の権利条約」等の国際人権の適用に関するものですが、現在は何十枚も書面を書いても国際人権の主張は裁判所に却下されて、その回答内容も2行ですまされてしまうのが実情のようですが、国際人権も含めた「人権」というものが生活に根づいてきて、裁判所も考慮に入れなければならないと考えるようになれば、必然的にその主張が通る確立も上がってきます。

なお、国際人権の主張が通るようになっても、「国際人権の適用がされた上で外国人の在留に関する国の裁量にどの程度の制約が加えられるか」という基本的な構図はかわりませんので、(当事者にとっては凄く大きな事ですが)今現在の、裁判での原告の勝率が1%未満で国は大した反論をしなくても勝訴できてしまうから状況から、原告の勝率が上がって国側もきちんとした反論を用意せざるを得なくなるといった位の問題だと思います。

こういった国際人権の地道な普及に関しても、「反日上等」を掲げた場合は、自民党女子差別撤廃条約・選択議定書の際の対応や、その背景となったネットでの批准反対運動を見て分かる通り、余り良い影響は与えないと思います。だからこそ、一般の人に対しても、対話の道を閉ざさずに、地道に説得していく事の必要性が出てくるのだと思います。

参考)
国際法(国際人権)の実現過程
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/334.html
女子差別撤廃条約・選択議定書の批准反対運動
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/286.html