国籍法改正の流れ

国籍法に関する基本的事項など - 雑記帳(前回記事)
http://d.hatena.ne.jp/seijigakuto/20090503/1241303475

国籍法について調べる際に必要な事は、これまでの改正の流れを把握する事だと思います。
日本の国籍法に関していえば、国籍法は戦後2回改正されました。一度目が1985年・2度目が2008年で、キーワードとしては「女子差別」と「非嫡出子差別」というものになり、それぞれの変更点は、以下の通りになります。

国籍法の改正点
当初
・重国籍の削減のため、「父系血統主義」を採用(当時は、世界中の多くの国が「父系血統主義」を採用)
1985年改正時(女子差別撤廃)
・「父系血統主義」→「父母両系血統主義」への変更
・出生によって重国籍になった子供に22歳まで、成人は重国籍になってから2年以内に国籍を選ばせる「国籍選択制度」の導入
・外国人母の非嫡出子の国籍取得に際し、父母が結婚していれば日本国籍の取得を認める(国籍法3条1項)
2008年改正時(非嫡出子差別撤廃)
・外国人母の非嫡出子が、父母が結婚していなくても届出をすれば国籍取得できる

1985年の改正時の事に言及すると、それまで日本では「父系血統主義」を採用していたため、外国人と結婚した日本人女性の子供は日本国籍を取得できませんでした。そのため、(国籍法に出生地主義を採用している)米国人の父と沖縄の日本人女性の間に生まれた子供がどこの国の国籍も取得できない事、国際結婚をした日本人女性の子供には日本国籍が継承されない事が問題視されました。
世界的な流れとしても、フェミニズムの興隆に伴う人権運動(女子差別撤廃)というものがあり、各国で女子差別撤廃条約に合わせて国籍法が改正される流れがありました(詳しくは、下の囲み記事の年代を参照)。そのような背景を受け、日本でも1985年に「父系血統主義」→「父母両系血統主義」の改正を柱とする国籍法の改正が行われました。

国籍法に「血統主義」を採用している国で、父系血統主義から父母両系血統主義になった国(変更年)
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/219.html#id_39f0971c
旧西ドイツ 1974年
スイス 1978年
デンマーク 1978年
スウェーデン 1979年
ノルウェー 1979年
ポルトガル 1981年
スペイン 1982年
イタリア 1983年
フィンランド 1984
オランダ 1985年
中国 1980年
韓国 1997年

この後、欧州では離婚や非嫡出子の増加という家族関係の変化、外国人移民の二世・三世の登場という変化を迎えます。それに伴い、論点は「非嫡出子差別の撤廃」「外国人の権利保障」などに移っていきますが、日本においては1990年代の後半以降は「人権」に対する懐疑派が次第に増え、ジェンダーのみならず、「人権」概念に対するバックラッシュとでも言うような現象が起こるようになってきています。


そんな中、国籍法における問題点として浮上してきたのが、外国人母の非嫡出子の場合の国籍取得の問題です(詳しくは以前作成したまとめページの方を参照)。

国籍法改正問題のまとめ
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/12.html

国内的な問題としては、専門家から差別の程度が大きいので違憲の可能性もあると指摘されている事、国際的には「児童の権利委員会(CRC)」において度々問題とされ(日本の第二回定期報告書(CRC/C/104/Add.2)に対する総括所見・2004年1月30日など)、「非嫡出子差別の撤廃」「外国人の権利保障」という今日的な論点の問題として、浮上してきました。

日本政府の傾向としては指摘や勧告を受けて法改正したり外国人の権利保障をするという方向性は取らず、国内法の整合性や国民世論からの後押しがあった場合に法改正するというものがあります。
そのため、日本政府はこの問題も自主的に法改正するという方向はとらず、違憲訴訟が起こされて裁判で5年間近く争い、その結果として違憲判決が出たのを受けて国籍法の改正が行われました(そういった背景がある法改正ですが、ネットでは大騒ぎになってDNA鑑定の導入をしないのは〜などとなりました)。


こういった国際的な人権保障の流れと国内的なバックラッシュ的な流れとが合わさり、今後の国籍法についての議論は進んでいくと思われますが、今後話題となってくるのは、重国籍問題をどう扱うか、在日コリアンの国籍取得をどうするか、それ以外の外国人の権利保障の手段としての国籍取得の条件をどうするかという問題だと思います。そういった国籍法の問題を考えるに当たっては、できれば、前回記事で書いた基本的事項などを踏まえて、落ち着いた議論がされるようになればいいなと思います。

国籍法に関する基本的事項など - 雑記帳(前回記事)
http://d.hatena.ne.jp/seijigakuto/20090503/1241303475

補足1

「国際的な流れ」に関しては、本音の所では、人権=アプリオリに正義という訳ではないのは、どこの国でも同じようなものだそうです。欧州に20年以上住んでいる人に聞いてみたら、人権(人道)は建前の世界の規範力として一定以上の拘束力はあるけれども、本音の世界では大して変わらない……といって、様々な実例が返ってきます。但し、「建前の世界での規範力が弱い」という意味において、日本の人権状況が欧州諸国に比較して劣っているという事も事実ですので、それをどう改善していくかというのも重要な点になるとも思います。
なお、保守層から見た「人権」的な流れは、女子差別撤廃条約に関わり、米国の保守的な女性団体の「人権派」の解釈を示した記事などが参考になると思います。

家族の絆を守る会・FAVS WCF(世界家族会議)関連ニュース
http://familyvalueofjapan.blog100.fc2.com/blog-entry-82.html
「家庭崩壊は、人権にとっての勝利である」と、国連人口基金(UNFPA)のリーダーが述べた。
最近行われたメキシコシティでの会議で、アリー・ホークマン(オランダのUNFPA代表)は、 離婚・婚外子の増加は、「家父長制度」に「人権」が勝利したことを表わすものであると、参加者に伝えた。
World Congress of Families(世界家族会議)のラリー・ジェイコブスは、「UNFPA国際法、及び子供や自然な家族の基本的人権を述べている世界人権宣言(UDHR)を無視している。」と述べた。
1948年に採択された国連世界人権宣言(UDHR)の16条には、次のように述べられている。
「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。」「成年の男女は、人権、国籍又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。」
ジェイコブスは次のように述べた。
「 自然な家族を壊そうとすることは、常にUNFPAグループの一番の課題に置かれてきた。彼らは、国際法・国内法を無視して、堕胎や強圧的な人口抑制に資金を提供し促進することによって、その目標を達成しようとしている。 」

補足2

昨年12月の国籍法改正の際、「DNA鑑定の義務づけ」が論点となりましたが、外国人母の非嫡出子にDNA鑑定を義務づけた場合、後に違憲判決を受ける可能性がかなり高いと思います。根拠は以下の通りで、違憲判決を受けるような立法を行う事は考えずらく、これをもって法務省が「反日」であるという言説は間違いだと言えると思います。

「DNA鑑定義務づけ」に関する法律的な検討
http://www7.atwiki.jp/epolitics/pages/133.html#id_ced93262
①今現在は偽装認知の立件件数は5年間で4件と、人権制約を合理化する立法事実がない
②諸外国の立法例としても、外国人母の非嫡出子の国籍取得の場合にDNA鑑定を義務化したものは無い
③日本の家族法民法)の場合、生物学上の親子関係までは求めておらず、そういった法体系の中で外国人母の非嫡出子の場合にのみDNA鑑定を義務化した場合は、法体系としての整合性が取れなくなる
④創設的・授権的規定(国籍取得の際、外国人母の非嫡出子の場合だけ純正要件を必要とする)と制限的規定(DNA鑑定の義務化)では、違憲性を審査する際の基準が違う
⑤従来は憲法14条1項後段の「人種、信条、性別、社会的身分または門地」は例外的規定であり特に意味はないとされてきたが、国籍法違憲判決では社会的身分である事を理由に「慎重に審査する必要がある」と言及されていて判例変更された可能性が高く、その射程はDNA鑑定の義務付け(社会的身分による差別)にまで及ぶ可能性も高い